太平洋上で発生した寒冷前線の吹き込みで、九州南端の沖合いは時化になっていた。

この近海に強い北西風が吹くと、北流する潮流とぶつかり会い、凄まじい三角波が沸き起こる。

メインセイルを縮帆した外洋ヨット「リバティ号」は、波頭を白く砕いて襲いかかる三角波に突き上げられて、夕闇せまる海で苦闘していた。

激しく揺れ傾ぐコクピットで、防水カッパのフ―ドを深々とかぶった艇長の古賀剛は、後悔の念に苛まされていた。

どうして俺はあいつをレ―スに乗せたんだ・・・・・・〉

リバティ号には八人のクル―が乗り組んでいる。日本をめざす長距離の航海では、二組に分かれた四人が、四時間交替でA・Bワッチを組んで帆走する。

だが甲板に四人いるはずのAワッチ・クル―が二人しかいない。

〈こうなった責任はスキッパ―の俺にある・・・・・・〉

古賀は塩辛い唾を吐き飛ばした。だが今さら悔やんでもどうにもなることではない。

香港をスタ―トして六日目の夕方だった。台湾海峡を抜けて、東シナ海を走破して大阪にゴ―ルする『セイリング・大阪2001年』に参加したレ―ス艇団二十三隻は、九州南端の佐田岬に近づいていた。

四日目までは順風に恵まれたが、五日目の早朝から寒冷前線の吹き込みで時化になり、海には凄まじい北西の烈風が吹き荒れた。リバティ号は左右に激しく横揺れして、船酔いで体力を消耗した若いクル―が落水した。

さいわい体を縛った命綱に曳かれて助け上げられたが、救助した熟練のクル―の一人が落水時のロ―プの衝撃で手首を痛めた。都合二人のクル―が使えなくなり、リバティ号の戦力は大きく低下した。

六日目の夕方に九州南端の佐田岬が見えたとき、リバティ号は戦力不足で他艇に大きく遅れをとっていた。

古賀は負けが取り返せないのなら、落水したクル―の手当てが必要だと無線連絡して、九州の港にリタイア(棄権)することも考えた。

〈だが・・・・・・〉

と古賀は思いとどまった。

それではリバティ号があまりにも哀れすぎる。外洋ヨットとして高い帆走能力を秘めたリバティ号を、未熟なクル―の落水事故のために、ぶざまにリタイアさせるわけにはいかない。

〈俺はこのリバティ号をかならず勝たせてやる――〉古賀は心の中で呻いた。

だが九州南端から四国沖までが大きな勝負処になる。レ―ス艇は佐田岬から四国沖への直線の最短距離を走るか、種子島まで沖出しして黒潮に乗せるか、その重要な決断に迫られた。

「この不利な状況で勝つにはどうするかだ」

夜の帳がおりる前に、古賀がナビゲ―タ―(航海士)の柴田和人に言った。

「クル―の戦力が下がったいま、普通のコ―スを走っても勝てない。俺は黒潮を使いたいが、お前はどう思う」

「いいだろう」

点灯したコンパスライトの仄赤い光を映した柴田が答えた。

「種子島まで沖出しすれば、北上する強い黒潮に乗れるはずだ。それは大きな賭けになるが、お前の勘にまかせる」

九州南端までレ―ス艇団をリ―ドしたのは大型ヨット「インディペンデンス号」だった。四日目までインディペンデンス号に食いついてきたが、今は大きく引き離されて帆影も見えない。この大差を逆転するために、古賀は黒潮を使って夜のうちに抜き返す作戦に決めた。だが黒潮に乗る作戦は、直線コ―スから外れることになり、大きな賭けになる。

古賀は躊躇しなかった。

「よし。ジャイブ(転舵)して種子島の黒潮をつかむぞ」

迫りくる夜の帳の中で、古賀はリバティ号を方向転舵させて、一路種子島方向にコ―スをとった。


・・・・・・リバティ号のキャビン内部は最悪の状態だった。強まった波浪の中でキャビンは四十度以上傾き、立ったままでは歩けない。キャビン内に固定されていないすべての物、セイルバッグ、ロ―プの束、クル―の荷物などが、風下側に叩き落されて積み重なっている。

「なんでこんなひどいヨットレ―スに出場する気になったんだ」

キャビンの吊り床に倒れ込んだ一ノ瀬雄次は、胃から突き上げてくる唾を吐き捨てた。

体は鉛が入ったように重い。落水の衝撃で全身に疲労がへばりつき、頭は朦朧として起き上がろうとする気力が出ない。

香港をスタ―トする前は、海とヨットに憧れを抱いていた。海に出れば身も心も鍛えられる。有名なヨットマンと一緒にレ―スをすれば女友達にも自慢できる。大きな期待を抱いてリバティ号に乗り込んだ。

だがその甘い考えはすぐに打ち壊された。見たこともない大波で船酔いになり、動くのがやっとである。激しい横揺れで体が支えられず、ヨットから落水した。命綱を付けていたのですぐ救助されたが、海水を飲んで吐き続けている。

衰弱した一ノ瀬の頭にあるのは、〈レ―スを止めて、はやく陸に帰りたい――〉という思いだけだった。

ヨットの艇体が波で激しく軋んだ。一ノ瀬は吊り床から転げ落ちた。朦朧とした意識の中で思った。

「畜生。こんなときにジャイブか・・・・・・」

風の方向が変わり、好位置をキ―プするために、ヨットが方向転舵して、帆の張り替えをしているのだろう。このままヨットは勝つために嵐の中を走り続ける。地獄のような海には、もう一秒も居たくなかった。

だがいまはあきらめるしかないと臍をかんだ。ふたたび嘔吐感がこみ上げてきて激しく吐いた。黄色い胃液に血が混じっている。一ノ瀬にとっていまやヨットレ―スは地獄となっていた。


闇が濃くなった時化の海を、リバティ号はひたすら種子島めざして進んで行く。風と潮流の加減で三角波が大きくなり、艇体が激しく左右に揺れ傾ぐ。

明日からさらに海は荒れると柴田は予測している。嵐の海に備えるために他のクル―は休ませておき、朝まで古賀は柴田と操船を続ける覚悟を固めていた。

古賀は舵輪を操って巧みに波をかわしながら思う。

〈なぜ俺はヨットレ―スに魅かれるんだろう・・・・・・〉

古賀は黒い水のつらなりをじっと見つめた。突き上げて白く砕ける波頭と、うねりの下の黒い谷。・・・・・・うねる水のつらなりを優美なヨットの艇体が切り割って進む躍動感。女体を征服するときにも似た感動が、波を一つ一つ切り割るごとに、リバティ号の艇体から伝わってくる。

古賀は夜の海のレ―スが好きだった。見えない敵を仮想の海図上に置き、潮流と風を使って勝負を挑んでいく。その興奮は何ものにも変えがたかった。頼りになるのは舵輪を握る自分の腕と、仄暗いライトに浮かんだコンパスの目盛りだけだった。それは自分を惹き込んで離さない何かがある。

三年前に別れた妻の言葉が頭をよぎった。

「あなたはいいわね。ヨットがあるから・・・・・・でも海に出たときあなたは家にいる私のことを一度でも思ったことがあるの」

「もちろんあるよ」

「嘘よ。だいたいヨットと私とどちらが大切なの」

「そういうつまらんことを口にするな」

「でもあなたはアメリカズ・カップの副艇長候補に指名されてから変わったわ」

「・・・・・・」

「夢は二つも追えないものよ。でも私はあなたを止めはしない。好きにするといいわ」

古賀は冷えてきた妻との関係は、会社勤めをはじめて四年目の自分の心の迷いと同調していると思った。大学四年間をヨットレ―スに打ち込み、インタ―カレッジで抜群の成績を残した古賀は、卒業後は変わりばえのしない証券会社のサラリ―マンになって結婚した。

だが利益追求しか考えない会社勤めに満足できず、その苛立ちが古賀を海に引き戻した。土日はすべてヨットレ―スについやした。大学時代のレ―スの勘は戻り、ジムで体を鍛え直した。海外の外洋レ―スには有給休暇を残らず使って参戦した。そんな古賀を会社と妻は白い目で見て、結局は二つを捨てた。

そのときバンという破裂音が船首から聞こえた。

三角帆を引く帆綱が切れて、強風にはためいている。

「まずいぞ。ジブシ―トが切れた」

柴田が叫んだ。「ジブシ―トを交換する。作業灯をつけてくれ」

古賀は作業灯を点灯した。甲板が明るく照らし出された。柴田が船首まで這い進んだ。

「だめだ。一人ではできない」

「よし。逆側のジブシ―トを使う。誰か助っ人を行かせるから、二、三分待ってくれ」


一ノ瀬が嘔吐で苦しんでいるキャビンのハッチ扉が開いて、古賀の声が落ちてきた。

「柴田の助けが必要だ。誰かBワッチのクル―で起きていたら、すぐ仕度してくれ」

〈なにをほざいてやがる〉

一ノ瀬は内心で罵り声を上げた。こんな時化の海で揺れるデッキに立つ馬鹿の気が知れない。運が悪ければ落水して死ぬ。

一ノ瀬の視線がキャビンの中をさまよった。・・・・・・四十フィ―ト(十二メ―トル)の外洋ヨットのキャビンの中は、八個の吊り床、剥き出しの簡易トイレ,傾いても使える炊事施設,航海計器と海図台が備わっている。

海図台の前面には風向・風速計、スピ―ドメ―タ―、GPS自働位置測定器、無線パネルなどの航海計器が、飛行機のコクピットのように並んでいる。

最初は格好よく見えたレ―シング・ヨットのキャビン内部も、いまは自分を痛めつける責め道具の羅列としか思えない。

目が航海計器に吸いついた。一ノ瀬の心に悪魔の誘惑が忍び寄った。

「そうだ。・・・・・・あの計器を壊せば、ヨットは走れなくなる」

定期交信する無線のコイルを切断して、現在位置を測定するGPSの液晶画面を叩き割れば、リバティ号はリタイアせざるを得ない。

一ノ瀬はBワッチのクル―キャプテンの坂口が、デッキに上がるのを待った。残りのクル―は疲れで鼾をかいて寝入っている。

坂口がデッキに消えると、吊り床の下のセイルバッグに手を入れて、シ―ナイフを取り出した。二十五センチの木製の柄付きのシ―ナイフがあれば、コイルを切断して液晶画面を叩き割れる。

シ―ナイフを握り締めた一ノ瀬は、鉛を鋳込まれたように重い体を起こして、吊り床から這い出した。

シ―ナイフを振りかざしたとき、父親の顔が脳裏をよぎった。

〈だめだ・・・・・・親父はこのレ―スに勝ちたいために、リバティ号を新造したんだ〉

一ノ瀬の心に躊躇が走った。もし自分がここで航海計器を壊して、尻尾を巻いて逃げるような真似をすれば、父親の落胆が大きくなる。

父親を尊敬している一ノ瀬は、それだけは避けたかった。シ―ナイフをじっと見つめたが、鞘に収めて吊り床に倒れ込んだ。


「どうだ。黒潮に乗れそうか」

夜の十一時過ぎに、コンパスライトに顔を映した柴田が言った。

「大丈夫だ。黒潮の匂いがする」

待ち望んでいた黒潮の強い流れを、闇の中に感じた古賀は、大きく息を吸い込んだ。海から湧き上がってくる濃い黒潮の匂いが胸を満たした。

古賀はむせかえるような黒潮の海流の匂いが好きだった。沖縄レ―スのとき危険を承知で吐喝利列島の悪石島に近づき、黒潮の本流に乗って伊豆半島をめざして優勝した。それ以来匂い立つ蒼黒い海流は古賀を魅きつけてやまない。

「そいつはよかった」

柴田が闇の中で笑うのがわかった。寡黙な柴田は海に出ると顔は笑っていても、目はいつもコ―スの彼方を見、コンパスの指針をチェックしている。月の光の中でも雲の流れを遠眺している男だ。

二人が組んで外洋レ―スを初めて六年目になるが、柴田の海象予測は外れたことがない。

大島レ―スに参戦したとき、太平洋を迷走する熱帯低気圧が北上してきた。北へ進めば大島近海は暴風圏になる。柴田は東側に発生した前線に熱帯低気圧が吸い込まれるのを予測した。案の定、その後に吹き出した北東の順風をとらえてレ―スをものにした。

古賀が柴田に会ったのは、世界最高峰のヨットレ―ス「アメリカズ・カップ(ア杯)」に出場したときだった。世界中の腕利きのヨットマンが集まるア杯で、柴田はしばしば的確な海象予測をして、アメリカやニュ―ジ―ランドの強豪艇を苦境に追い込んだ。

二人は次回のア杯に出場するためにプロセイラ―になった。だが日本でヨット稼業で暮らしを立てるのは容易ではない。外洋レ―スヨットを所有しているオ―ナ―と契約して、レ―スに勝つのが一番の早道だった。そのために競馬でいいジョッキ―と名馬が一体となって勝利を手にするように、ヨットの艇長もレ―スヨットの性能を見抜く能力が必要になる。

古賀がリバティ号の艇長を引き受けたのは、卓越した強風の帆走性能に魅かれたからだ。

リバティ号の同型艇は、昨年の世界一周レ―スに優勝した。その実績で世界デザイン・コンべで最優秀ヨットの栄冠を勝ち得た。とくに南極近海の暴風圏での性能がずば抜けてよかった。

古賀は黒い海面を切り割るリバティ号の艇体に目をやった。

〈このリバティ号は強風に滅法強いヨットだ・・・・・・〉

世界一周レ―ス優勝艇の俊足な艇体ラインを描いたデザイナ―の感性が、舵輪を握りしめる古賀の手に伝わってくる。

スピ―ドメ―タ―に目をやった柴田の声が弾んだ。

「いいぞ。対地速度が二ノット上がってる。確実に黒潮をつかまえた。お前の勘が当たったぞ」

「二ノットの増速なら、先行するインディペンデンス号を捉えられるな」

「もちろんだ。このまま行けば明日の朝には、先行艇のセイルが見えるはずだ」

柴田がスピ―ドメ―タ―から顔を上げた。

「それに四国沖まで行けば、風はさらに三、四メ―トル強くなる。そうなれば強風に強いリバティ号は飛ぶように走るぞ」

柴田の予測によれば、室戸岬に達するころには、低気圧の接近で十五メ―トルを超す烈風が吹くという。リバティ号にとって絶好のコンディションになる。

「よし。四国沖で勝負を決めてやる」

古賀は舵輪を強く握りしめた。大洋のうねりと黒潮が作り出す三角波の下の、桁外れて大きな何ものかが、リバティ号を突き動かしていく。


リバティ号の性能に目をつけたのはオ―ナ―の一ノ瀬元雄だった。

古賀が一ノ瀬に会ったとき、豪華な応接室でこう切り出した。

「君が古賀君か。忙しいからすぐ用件に入るが、こんどのセイリング大阪2001に艇長として雇いたい」

美容整形外科のチェ―ン化に成功した院長の一ノ瀬は、長身で知的な感じのする五十代半ばの男だった。女性を美しくする仕事をしているだけに、容姿はダンディで、女性を魅きつけるム―ドがある。だが言葉に温かさが感じられない。

銀縁の眼鏡の奥の目を細めた一ノ瀬が続ける。

「知っていると思うが、私のリバティ号は世界の一級品だ。誰が乗っても勝てる名艇だが、念には念を入れて君を雇うからには、必ず勝ってもらいたい」

古賀が一ノ瀬の言葉を遮った。

「そういう保証はできません」

「どうしてだ」

「外洋レ―スでは何が起こるかわからんもんです。風ひとつ取っても二日先の予測も難しい。その海で勝ちを保証することなど、できる相談ではないですよ」

「君はプロのセイラ―だろう」

一ノ瀬の声が尖った。

「だったら勝つのは当然じゃないか」

「もちろんレ―スに出場する以上は、作戦を立てて勝つ努力はします。だが海は変化して捉えどころがない。そこが外洋レ―スの難しいところでもあるんです」

「君は日本のトップセイラ―かも知らんが、金を払って雇うのはこの私だ。あまり御託をならべんほうがいいぞ」

「海を舐めてかかると大変なことになります。そこをわかってもらわないと引き受けられません」

「わかった」

意外にも一ノ瀬はあっさりと引き下がった。

「もう一つ条件がある。息子をクル―として乗り組ませたい」

「息子さんは外洋レ―スの経験はあるんですか」

「外洋レ―スは初めてだが、医大のヨット部で小型ディンギ―をやったことがある。いまはテニスと自動車レ―スをやらせているが、運動神経は抜群だ。すぐに外洋に慣れるはずだ」

「外洋レ―スに初心者は無理です」

「オ―ナ―の私は忙しくて乗れない。息子は私の代理だと考えてくれ」

「それなら息子さんを、日本から香港までの廻航に乗せてくれませんか。東シナ海をゆっくり走りますから、外洋に体が慣れてきますよ」

「雄次はレ―スの前は自動車レ―スで忙しいと言ってた。まあこれはオ―ナ―の頼みだと思ってくれ」

「ですが息子さんが船酔いで倒れて、お荷物になっても知りませんよ」

「その点は大丈夫だ。じつは私は気象庁の幹部に友人がいる」

一ノ瀬が自信ありげに笑みを浮かべた。

「その友人に頼んで十年間のレ―ス海域の風を調べさせた。結論から言えば六月は、五日のうち三、四日は風が弱いというデ―タ―が出た。さすがは気象庁だと思った」

「デ―タ―はあくまでデ―タ―です」

古賀は言葉を切って一ノ瀬を見た。

「気象の変化の大きい外洋では、過去のデ―タ―は当てにはできません。だから海は荒れるものだと覚悟してもらいたい」

「私は君たちの勘よりも、気象庁の幹部の数字を信頼する。そのデ―タ―でリバティ号を絶対に勝たせてみせる」

一ノ瀬がふたたび笑みを見せた。古賀は自信に満ちたその笑みを、幼い頃から欲しいものは何でも手に入れて、医者としても成功し、社会的地位を手にした男の過剰な自己過信だと思った。

古賀はレ―スの二日前に、香港で一ノ瀬の息子と顔を合わせた。

父親似で長身の雄次は、親の権威を笠に着た物言いをした。

「俺は医大の定期戦にスナイプ級で出場して優勝したんです。外洋は大型帆船の海王丸で日本沿岸を十二日間航海しました。たかだか六・七日の外洋のヨットレ―スなんてへっちゃらだよ」

古賀は生意気でもゴ―ルするまでへばらずに動ける体力があればいいと思った。だが外洋を帆走する苛酷さ――リバティ号の船べりはわずか二メ―トルで、五メ―トルの大波がくれば、甲板は三メ―トル波の下になることなどを話した。

「外洋ヨットの船底には、鉛のキ―ル(龍骨)バラストが付いていて、絶対に転覆しないんでしょ。それなら大丈夫じゃないですか」

一ノ瀬が薄笑いを浮かべて反論した。

「確かにヨットは横倒しになっても起き上がる。だが乗っているのは生身の人間だ。外洋を舐めると大変なことになる。必ず命綱と救命具を付けることを忘れるな」

「わかりましたよ」

一ノ瀬が不貞腐れたように答えた。

「それと怖いのは船酔いだ。こいつを防ぐ効果的な手はない。レ―ス前は十分に寝て、酔ったら吐く。そしてゴ―ルするまで気力で頑張ることだ」

「古賀さんはアメリカズ・カップに出場した国際的なヨットマンでしょ。船酔いは気力で頑張るなんて、少し古臭いんじゃないですか」

一ノ瀬は右手を差し出した。手首に赤いベルクロテ―プが巻かれている。

「船酔いしない方法をインタ―ネットで検索したんだけど、この酔い止めバンドを見つけたんです。こいつを手首のツボに巻けば、絶対に酔わないと保証してます。これは気力で船酔いを防ぐ精神論よりずっと科学的ですよ。古賀さんもどうですか」


四国沖に近づくにつれて、風はさらに強まってきた。

大うねりに突き上げられてリバティ号が傾いたとき、古賀はなにか微妙な違和感を感じた。

〈なんだ? この妙な舵の手応えは・・・・・・〉

強風に強いといわれるリバティ号も、これほど荒れた海では復元力が弱まるはずだ。しかも長いワッチの疲れで、舵をとる感覚が鈍っているのかもしれない。いずれにしろ心配することはない。

「あと三十分もすれば夜が明けて、四国の足摺岬が見えてくる」

古賀がコクピットで帆綱を操る柴田に怒鳴った。

「どうだ。俺たちがインデイペンデンス号に追いついているか、賭けてみるか」

「やめておこう」

柴田が飛沫に濡れた顔を古賀に向けて、明るい声で応じた。

「黒潮をつかまえたお前の勘は漁師と同じだ。二人とも同じでは賭けにならん。俺も夜明けが楽しみだ」

アメリカのフロリダ半島で開催される「SORCレ―ス」で勝負の鍵となるのはメキシコ湾流(ガルフストリ―ム)だ。ユカタン半島沖で発生して大西洋を流れ上がり、イギリス沖まで達するメキシコ湾流は力がある。

SORCの第二レ―スでメキシコ湾流を掴まえたのは柴田だった。あのときも強い海流に深々と突っ込み、暁闇の海でアメリカのライバル艇の帆影が前か後か、いずれに現われるのを見守った。そして柴田の読みはみごとに当たった。

古賀は暁闇の水平線をじっと見つめた。海の底から突き上げてくる大うねりの頂が、少しずつ白んできた。

「どうだ。なにか見えるか」

柴田が双眼鏡をかざして水平線を見ている。

「まだ見えないが、黒潮でインディペンデス号を追いつめていることは確かだ。そうなれば次のコ―ス取りが重要になる」

もしインディペンデンス号に負けているときは、四国沖に接近する低気圧に吹き込む強風域に突っ込んで勝負に出る。それが柴田の作戦だった。

「帆影が見えたぞ」

柴田が前方のうねりの中で、見え隠れする小さな帆影に焦点を合わせた。

「どこだ」

「かなり前方だ。艇体が青いからインディペンデンス号に間違いない。だがこの距離なら逆転できる」

インディペンデンス号はリバティ号より四フィ―ト大きい。ハンディキャップによりリバティ号は少し遅れても時間修正で勝てる。だが古賀は一位でゴ―ルして完全優勝を狙っていた。

そのとき古賀はふたたび妙な違和感を感じた。

〈やはり何かおかしい・・・・・・〉

それはリバティ号のバランスだった。風が強まれば強まるほど、高性能を発揮するはずのリバティ号の復元能力が、強風下で弱い感じがする。

「どうした」

柴田が古賀の顔を覗き込んだ。

「いや。なんでもない」

古賀が飛沫に濡れた顔を手で拭って、明けきった空を見上げた。黒みがかった厚雲が西から東へ向って流れていく。

「雲の流れがかなり早い。お前の予測では、これから風はもっと強くなるんだな」

「そうだ。低気圧が下がってきた。間違いなく四、五メ―トルは強くなる。そうなればリバティ号の独壇場だ。おもしろくなるぞ」

古賀は黙ってうなずいたが、妙な違和感を拭い去ることはできなかった。



インディペンデンス号を視界に捉えた古賀は、Bワッチの坂口と舵取りを交替する前に、コ―スの指示を出した。

「いいか坂口。インディペンデンス号は軽風向きだ。これから強風を避けて四国の岸に近づくはずだ。やつを追い抜くために俺たちはさらに沖に出て、低気圧の強風域の中を走る作戦をとる」

「どのくらい沖に出しますか」

坂口もア杯に挑戦したクル―で、冷静だが熱い闘争心をもっている。

「めいっぱいコ―スを東寄りに下げて、五十五度まで沖に出して室戸岬に向かう」

古賀の勝負に出る意気込みを知ってうなずいた坂口が、天気図に目をやった。

「この気圧配置だと四国沖の風はかなり強まりますね。いや、これだと時化というより嵐になるな」

Bワッチと交替した古賀はキャビンに降りて、一ノ瀬の顔を覗き込んだ。

一ノ瀬は嘔吐に耐えながら、吊り床に横になったまま動かないでいた。

「おい。具合はどうだ」

一ノ瀬は船酔いで苦しむ振りをして答えなかった。たとえ船酔いから立ち直ったとしても、絶対に甲板には出ないと決めていた。

「まだだめか」

古賀は一ノ瀬の手首を見た。赤いベルクロテ―プの船酔い止めバンドが、嘔吐物で汚れている。

「お前も一応はオ―ナ―代理だ。大阪にゴ―ルするときには、デッキにしゃっきと立てるようになれよ」

〈なにを言ってやがる。金輪際ヨットなどに乗るものか〉

一ノ瀬は内心で罵った。

古賀は湿った毛布を一ノ瀬にかけた。反対側の吊り床で防水カッパを着たまま横になったが、一瞬のうちに大鼾をかいていた。


ドシ―ンと波浪が艇体を叩きつける音がして、キャビンが横倒しになった。

熟睡していた古賀は、衝撃で吊り床から跳ね飛ばされた。落下して海図台にぶつかり、海図が床に飛び散った。

よろめきながら立ち上がった古賀は、大切な海図が濡れないように収納庫に入れた。そのときビニ―ルに包まれた設計図が二枚見えた。

「リバティ号の設計図か・・・・・・」

だが二枚あるのが腑に落ちない。海図台で体を支えながら二枚を見較べた。船底に突き出た鉛のキ―ル・バラストの形状が少し違う。気にとめずに古賀はデッキに出た。

ワッチ交替の時間だった。

「どうして横倒しになった」

古賀が坂口に声を飛ばした。

「真横のうねりにやられました。思ったより腰が弱いんです。なにかバランスがおかしいような気がします」

古賀は海を見た。柴田が予測した通り、低気圧に突っ込んだために、烈風が吹き荒れて嵐のようになっている。

「こんな嵐の海ではリバティ号でも横倒しになる。気にするな」

古賀は坂口の肩を叩いて元気づけた。

「だがこれだけ強風が吹けば、インディペンデンス号を抜き返せるチャンスは大きい。用心のために荒天帆に縮帆して追い上げる」

Bワッチクル―の手を借りて縮帆を終えた古賀は、舵輪を握りしめて烈風が吹きすさぶ海を見た。

この嵐の海を走りきれば、あと二日足らずでゴ―ルできる。強風向きのリバティ号ならトップを奪うことも可能だ。最後の一日は全員が眠らずに「総員起こし」で頑張ればいい。優勝が目前になれば、一ノ瀬も気力を振り絞って甲板に出てこられるかもしれない。

古賀は最初は一ノ瀬をレ―スに乗せたことを悔やんだが、この嵐の海をともかく完走できれば、結局は嵐の海で鍛えられたことになる。

「あ奴もいい親父をもったもんだ」

古賀が柴田に怒鳴るように言った。

「どうしてだ」

「将来は苦労もなしに大病院の院長だ。しかも世界の名艇でレ―スもできた。それもみな親父の力だ。船酔いで苦しんでもお釣りがくるぜ」

「そうだな。俺たちもこのレ―スに勝てば、来年も契約できて喰いっぷちが稼げる。まさに院長さまさまだ」

東の空に黒雲が広がり、下方が裂けて、赤い光の束が不気味に海面に突き立った。低気圧の接近による前線の通過だった。

「すげえのがくるぞ」

世界一周レ―スに出場した柴田が空を見上げた。

「南極の暴風圏もこうだった。だが速くなる。リバティ号はこの嵐の海で、もっともっと速くなる」

風が真上から落ちてきた、と思った瞬間、リバティ号は舵の制御を失って横倒しになった。

白く砕けた波涛がデッキを洗い、かろうじて命綱で身体を保った古賀が呻くように言った。

「おかしい。腰が弱すぎる」

そのとき古賀の頭をある閃きが走った。

「おい柴田。舵取りを替わってくれ」

舵輪を柴田に任せて古賀は、キャビンに飛び込んだ。

収納庫を開いて、リバティ号の設計図を取り出した。

二枚を見較べた古賀の胃から酸っぱい胃液が込み上げてきた。

「なんということだ――あの一ノ瀬の野郎。とんでもないことをやりやがった」

波涛が砕けてリバティ号がまた横倒しになった。体を支えきれずに転がった古賀の胸に、激しい怒りが突き上げてきた。

「リバティ号の腰が軽いわけが、やっとわかったぞ」

応接室で見せた一ノ瀬の笑みはこれだった。それを自分は金持ちの自己過信だと勘違いしていた。

古賀は一ノ瀬に這い寄って胸ぐらを掴んだ。

「起きろ。船酔いでたらたらと寝てるんじゃない」

「な、なにをするんだ――」

「この揺れを見ろ。お前の親父はとんでもないことをしでかしたんだ」

最初は訳がわからなかった一ノ瀬も、古賀の怒りの凄まじさに息を呑んだ。

「お、親父が、なにをしたんです」

「このリバティ号を冒涜したんだ」

古賀は一ノ瀬を傾く船底に突き倒した。

「見ろ。その結果がこの大揺れだ。この馬鹿野郎め」



古賀の怒声でBワッチクル―が起き出してきた。

「古賀さん。どうしたんです」

坂口が驚きを顔に浮べて訊いた。

「強風に強いリバティ号が、このくらいの大波で横倒しになるわけがない。その原因がいまやっとわかった」

「なんですって」

ことの重大さに坂口が顔色を変えた。

「見ろ。これがリバティ号の設計図の原図だ」

古賀は体を支えながら設計図を差し出した。

そしてもう一枚の設計図を見せた。

「こいつが今のリバティ号の設計図さ」

「どこが違うんです」

坂口が設計図を覗き込んだ。

「キ―ルバラストの重さだ。いいか。あ奴の親父は勝手に四百キロも軽くしやがった」

キ―ルが四百キロも軽くなれば、横倒しになっても不思議はない。坂口が悲痛な顔で設計図を見た。

設計図の変更は、異なったレ―ス海域の海象に遇わせてなされることは時々ある。

だがそれは多少の変更――たとえば軽風海域用として、セイルの面積を大きめにする程度の変更である。それならば風が強くなれば、縮帆して対処できるから危険はない。

だがヨットの復元力となる鉛のキ―ルバラストを軽くすることは、ヨットそのものの帆走性能を根本的に変えることになる。そういう重要な設計変更を、デザイナ―が認めるはずがない。

古賀は書き直された設計図の署名を見た。

「見ろ。やはりデザイン変更したのは日本人のデザイナ―だ」

古賀は一之瀬が気象庁の友人に頼んで、六月のレ―ス海域の十年間のデ―タ―を調べさせたことを思い出した。五日のうち三、四日は軽風だと言った。たしかにキ―ルバラストを軽くすれば、ヨットは軽風で速くなる。一ノ瀬は勝ちたいために、無断で日本人デザイナ―に大金を払ってキ―ルに手を加えたのだ。

古賀が一ノ瀬に向き直った。

「お前の親父はやってはならないことをやった。ずいぶん金がかかったことだろうよ」

「そんなこと、俺、知りませんよ」

「今さらそんなことはどうでもいい。それよりこれからどうするかだ」

古賀がふっと不敵に笑った。

「おい一ノ瀬――キ―ルの重さが四百キロ少ないのなら、お前の体重で補ってもらうぞ」

古賀が睨みつけた。

「これからオ―ル・ハンズで寝ずに走る。八人がデッキで錘になれば五百キロになる。すぐ防水カッパと命綱を付けてデッキに上がれ」

青い顔で一ノ瀬がうなずいた。

「ゴ―ルするまで船酔いなんて軟弱なことは、口が裂けても言わせんからな。死ぬ気でやるんだぞ」

言うなり古賀は一ノ瀬の手首の赤いベルクロテ―プを剥ぎ取った。


嵐の海に夕闇が迫った。

風波はさらに強まり、点灯した航海灯の赤と青の光源が激しく上下に揺れた。

古賀はクル―全員を右舷に乗り出させて、錘として嵐の海を走っていく。

メインセイルは最も小さい三角荒天帆にしてある。だがリバティ号は砕けたうねりに突き上げられて、危うげに横揺れを続ける。

闇が濃くなったとき柴田が叫んだ。

「なんだ、あれは――」

荒れ狂う海の闇の中に、漆黒の巨大な物体が進んでくる。

「本船だ。かなりでかいぞ」

古賀は闇の中を進んでくる巨大な影に息を呑んだ。

航海灯の高さから推察できるその巨きさよりも、赤と青の航海灯火を見せて進んでくるその方向に問題があった。

「ちっ。こちらに真っ直ぐに進んできやがる」

古賀は本能的に危険を嗅ぎ取った。

「照らせ。ライトでセイルを照らして、俺たちのヨットの位置を知らせるんだ」

クル―が懐中電灯で白いセイルを照らし出した。闇に浮び上がったセイルの白さは、嵐の海で際立った。

「お――い。進行方向を変えろ。頼むから変えてくれ」

ライトを照らすクル―たちは、届きもしないことは百も承知で、恐怖をかき消すように大声で叫び続けた。

エンジンで進む船舶は、帆走するヨットを避ける義務がある。

だが本船は気づかずに直進してくる。

「畜生め。オ―トパイロットにして寝てやがる。誰も真下のヨットなど見てないぞ」

初めて古賀の胸に恐怖が突き上げてきた。

いままでヨットは強いものだと信じていた。海の上で不安など感じたことはなかった。

だが考えてみれば船板一枚下は地獄の海だ。巨大な黒い塊を目の前にして、古賀の心臓は恐怖に凍りついた。

「どうする」

柴田が切迫した声で訊いた。

「ジャイブだ。帆を換えて衝突を避ける。ブ―ム(帆桁)を返せ」

古賀は左へ転舵すべく、舵輪を回した。

だがリバティ号の傾きが大きすぎて舵が効かない。

「柴田。手を貸してくれ。二人で舵輪を回すぞ」

二人掛かりでも、リバティ号の舵の制御が効かない。海の荒々しさが古賀を翻弄する。渾身の力を込めてリバティ号を転舵させようともがき続けた。

忽然と嵐の海に現われた巨大なものと戦っているとき、古賀は一ノ瀬への怒りを忘れている自分に気づいた。

〈俺が相手にしているのは、舐めてはならない海なんだ。一ノ瀬など問題ではない。荒らぶる海こそが俺の相手なんだ〉

そう思った刹那に古賀の心に冷静さが立ち戻ってきた。

脳裏にマッチレ―スで戦ったアメリカズ・カップの優勝艇、ニュ―ジ―ランドチ―ムを撃破したシ―ンがよみがえった。・・・・・・十五人のクル―全員が一致協力して、体重を反対舷に掛けて、ヨットの転舵を助けた強制転舵。人間の力とヨットの性能が一点で交わり、決まった鮮烈な風下への方向転舵。それしかないと古賀は決断した。

黒い巨大な影は迫っていた。古賀の野太い声が嵐の海に響いた。

「よし。全員でロ―ルジャイブだ」

クル―全員が右舷に張られた転落防止用の救助ワイヤ―を両手で掴み、中腰で全体重を船べりから外へ乗り出して強制転舵を試みた。

だがリバティ号は方向を変えない。

「もっと体を外に乗り出せ。思いっきりだ」

全員が外へ乗り出した瞬間、クル―一人が落水した。

「誰だ。落ちたのは」

柴田が白波を蹴立てる海を見た。

「一ノ瀬だ。ハ―ネス・ロ―プで曳かれている」

「二度も落水する馬鹿がいるか。それで大丈夫か」

「水は飲むだろうが、しばらくは大丈夫だ」

「よし。それならこのまま行くぞ」

古賀は躊躇しなかった。

「廻せ。廻せ。ロ―ルジャイブで船を廻せ」

一ノ瀬の体が海中で命綱に曳かれる抵抗と、残ったクル―の体重が重なり、舵が左へわずかに廻った。

「いまだ。ブ―ムを反対舷に返せ」

坂口がクル―三人と渾身の力を込めて帆桁を返した。

烈風を切り裂いてメインセイルの帆桁が反転した。リバティ号は左へ船首を向けた。

眼前に迫った巨大な本船の航海灯が、わずかに右方向に外れた。

それを見た古賀が叫んだ。

「いまだ。一ノ瀬を引き上げろ」

助け上げられた一ノ瀬を見て古賀は、「はっははは」と笑った。

顔に叩きつける冷たい飛沫とともに熱い涙が流れていく。

巨大な本船の影が右舷を通りすぎて行った。

「見ろ。俺たちは勝ったんだ・・・・・・」

去っていく本船の影に向って古賀が叫んだ。

二度、三度叫んでから、古賀は舵輪を握り直して前方を見た。いまレ―スの勝敗は古賀の頭になかった。古賀の目は吹きすさぶ嵐の彼方に向けられていた。

古賀が探しているのは、闇の海を照らす光芒だった。

闇を切り裂く一条の光の束。・・・・・・室戸岬の燈台の光芒を古賀は闇の中に探した。

びしょ濡れでデッキに這いつくばった一ノ瀬が呻くように言った。

「古賀さん。あれは、なんですか」

一ノ瀬が寒さで震える手で指した方向を古賀は見た。

「おい一ノ瀬。お前もこれで一人前だ。はやくキャビンで着替えてこい」

古賀が見たものは嵐の水平線でかすかに光った光の照り返しだった。その光芒は四国の大地を確かに感じさせた。

「俺たちはリバティ号を護り、そして勝ったんだ・・・・・・」

古賀のつぶやきが闇の中に吹き飛んだ。かわって光の束が少しずつ強さをましてきた。

[完]

集英社 「小説すばる」2001年12月号掲載

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